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思い出の草むら

猫のこと・犬のこと

 このところ暑いくらいの陽気が続いている。

外を歩く時は日傘が必要になってきた。

日傘をさして、いつものスーパーへ買い出しに行く。

仕事に行ってた日も、買い物に行く日も、ほぼ毎日歩くこの道。

20年以上往復している。

途中、ミスタードーナツの駐車場の脇に小さな空き地があるのだが、通る度にその空き地の草むらを見て思い出すのだ。

13年前の5月のある日のことを。

 

 早朝の仕事に行く途中、草むらから「ぴゃーぴゃー」と子猫の鳴き声が聞こえてきた。

「捨て猫かな…」気になりながらも仕事に行く。

仕事が終わって帰る際も、やはり「ぴゃーぴゃー」聞こえてきた。

お母さん猫を呼んでいるのだろうな…。

立ち止まって草むらを眺めるが、草はわたしの膝くらいまで伸びていて姿は見えない。

ううむ…と考えながら家に帰った。

うちにはもう先住猫「ポコちゃん」がいて、息子にポコちゃんがイヤなことはしないように昔から言われているのだから、関わることはできないのだ。

しばらくして銀行に用事があると思って、それを口実にまた様子をうかがってみた。

ひっきりなしに「ぴゃーぴゃーぴゃーぴゃー」鳴いている。

「顔を見せてみ?」と声をかけると、草むらからひょっこりと小さな顔を出した。

…これはいかん…と思う。

目ヤニで目がつぶれかかっている。病気をポコちゃんに感染させるわけにはいかない。

それにサビ猫?とてもかわいいとは思えなかった。

 夕方、みのちゃんが帰宅して「子猫がおるねん…ぴゃーぴゃー鳴いてる…見に行ってみる?でも病気みたい…」とぼそぼそ言うと……見に行くと言う!

わたしはとっさに買い物かごを手に取って、ふたり歩いて現場に向かった。

あいかわらず「ぴゃーぴゃー」泣き続けている。

みのちゃんが草むらにガサガサ入って「そっちに追い詰める」と言うので、わたしは鉄の柵の隙間から右手を肘まで入れて草の中をまさぐった。

するとすぐに温かな子猫の身体に触れた。まるでわざと近寄ってきたみたいだ。

子猫はわたしの手をガジガジ甘嚙みするのだった。

右手だけで胴体を掴むことができた。

「いやんいやん」と嫌がって身体をクネクネするものの、逃げようとはしなかった。

あっという間に確保して子猫を掴んだまま、みのちゃんに「こんなんやで?」と確認させる。

ふたりとも苦笑いしながら、かごに入れて早足で帰った。

苦笑いしながらも、ひとつの命を拾ったのだから気持ちはドキドキ動揺している。

うちに帰ってとりあえずダンボールの中に入れた。撫でようと手を入れると「チャッ、チャッ」と一人前に威嚇したが、怖くもなんともなかった。

鳴き続けていた子猫は疲れ果てていて、箱の隅でちんまりまあるくなって眠った。

ただ、その寝顔をいくら見ても…いくら見ても…可愛いと思えないのだった。

落ち着いてから、臭い身体を洗いながら「何かに似ている!…コウモリだ!」とわたしは叫んだ。

名前をつけようとネーミングを考えるが、どれも似合わなくて最初に呼んだ「ちび」がそのまま名前になった。

それでも目薬を入れると、みるみるうちに目がまん丸になった。

我が家での生活に慣れると、好奇心旺盛の遊び好きな、おもしろくて可愛いねこになった。

 草むらを見ると、あの時のちびちゃんがひょっこり顔を出しそうな気がする。

思い出す度、胸がキュッと詰まるんだ。

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